
アスベストは、人体にとって非常に危険な物質です。
アスベストは、微細な繊維状の粒子であり、空気中に飛散すると目に見えないほど小さくなります。
この粒子を吸い込むと、肺に留まります。
肺に留まったアスベストは、長期間にわたって慢性的な炎症を引き起こし、肺組織の傷害や癌化を促進します。
アスベストが原因となる主な疾患は、以下のようになります。
危険性
肺がん
アスベストばく露から肺がん発症までに15~40年の潜伏期間があり、アスベストの累積ばく露量が多いほど肺がんになる危険が高くなることが知られています。
石綿のばく露濃度とばく露年数をかけた値が25 ~ 100繊維/ml×年※となる累積ばく露量で肺がんの危険は2倍に増加するとされています。
また、アスベストのばく露と喫煙歴のない人が肺がんを発症するリスクを1とすると、
- アスベストのみのばく露では肺がんの発症リスクは5倍
- 喫煙のみでは10倍
- アスベストとタバコの両方のばく露がある場合は50倍
になると報告されています。
中皮腫
胸膜中皮腫の発生のリスクは石綿の累積ばく露量が多いほど高くなります。
つまり、アスベストにばく露した期間や量が多いほど、中皮腫を発症するリスクは高くなると考えられています。
中皮腫は石綿肺、肺がんより低濃度のばく露でも危険性はあり、職業的なばく露だけでなく、家庭内ばく露、近隣ばく露による発症もあります。
腹膜中皮腫の場合には、男性例では高濃度ばく露や角閃石族石綿(青石綿、茶石綿)のばく露が多いことが知られています。
アスベストにばく露した期間や量が多いほど、中皮腫を発症するリスクは高くなると考えられています。中皮腫は、肺や胸膜などの中皮細胞から発生する悪性腫瘍であり、非常に予後が悪い疾患です。
アスベストを吸い込んだ人が中皮腫を発症するリスク
アスベストを吸い込んだ人が中皮腫を発症するリスクは一般の人と比較した場合どのくらい高くなるかは、正確には分かっていません。
しかし、アスベストにばく露した人の中で中皮腫を発症する割合は、一般の人よりも高いことが研究で示されています。
アスベストは非常に危険な物質であるため、日本では2006年から全面的に使用が禁止されています。
しかし、アスベストにばく露してから中皮腫が発症するまでには、平均して40~50年の長い潜伏期間があります。そのため、過去にアスベストにばく露したことがある人は、今後も中皮腫を発症する可能性があります。
中皮腫は早期発見が難しい病気ですが、胸水や腹水などの症状が出た場合は、早めに医師に相談することが大切です。
肺線維症(石綿肺)
肺線維症は、肺組織が硬くなり呼吸困難や咳などの症状を引き起こす疾患です。
石綿を大量に吸入することにより、肺が線維化する「じん肺」という病気の一つです。
肺の線維化が徐々に進行し、酸素-炭酸ガスの交換を行う機能が損なわれるため、呼吸困難が生じます。
肺の線維化を起こすものとしては石綿以外の鉱物性粉じんをはじめ様々な原因や原因不明も多くありますが、石綿のばく露によっておきた肺線維症を特に石綿肺とよんで区別しています。
アスベストを吸い込んだ人は、一般人の約10倍のリスクで肺線維症を発症します。肺線維症は、肺組織が硬くなり呼吸困難や咳などの症状を引き起こす疾患です。
アスベストに長期間さらされると、鉱物粉末の細かい繊維が肺に沈着し、不可逆的に瘢痕化します。
アスベストを含む製品または建物への曝露、70年代から90年代の終わりまでアスベストを使用して建設された建物や建設現場で働いていた人は、アスベストを吸い込んでいるリスクが高くなります。
喫煙者は、アスベスト症にかかりやすいため、発症のリスクが高くなります。溶接工、清掃員、配管工など、アスベストにさらされる職業に就いている人も注意が必要です。
治療法はありませんが、治療は症状を和らげ、肺機能を改善することができます。
薬としてはSalbutamol, Levalbuterol (気管支拡張薬)やGuaifenesin (粘液シンナー)などがあります。重度の場合は肺移植も選択肢の一つです。
予防策
予防策としては、曝露回避、職場およびその他の環境からのアスベスト除去、禁煙などがあります。
タバコの煙およびアスベストの両方に曝露すると肺癌のリスクが乗算的に増大するため,禁煙は極めて重要であることが指摘されています。
疾患が発症するまでの期間
アスベストによる疾患が発症するまでの期間は、病気によって異なりますが、初めてアスベストを吸入してから、数年から数十年後に発症するといわれています。
長い場合だと、40〜50年後に発症するケースもあります。
厚生労働省の人口動態統計によると、1960年代の石綿輸入量の増加した時期に潜伏期間(平均約40年)を加えた時期にあたる最近において急増してきています。
2017年に中皮腫で死亡された方は1,555名で、1995年の3倍以上になっています⁷。
また、2019年に世界で24万人をこす人々がアスベスト曝露の結果として亡くなっているという状況です。日本のアスベスト疾患による死亡数は、アメリカと中国に次いで、世界第3位です。これらの数字は今後も増加する可能性があります。
健康被害防止策
アスベストによる健康被害を防止するために、日本で制定されている法律は主に以下の2つです。
石綿障害予防規則
建築物の解体や改修などの工事における石綿(アスベスト)の飛散や作業者のばく露を防止するための規制を定めたものです。
この規則では、事業者は、石綿による労働者の肺がん、中皮腫その他の健康障害を予防するため、作業方法の確立、関係施設の改善、作業環境の整備、健康管理の徹底その他必要な措置を講じることが求められています²。
事業者は、労働者の危険の防止の趣旨に反しない限りで、石綿にばく露される労働者の人数並びに労働者がばく露される期間及び程度を最小限度にするよう努めなければなりません。²。
石綿障害予防規則規則は、労働者が安全かつ健康的な労働環境で働けるようにするために重要な役割を果たしています。
また、石綿(アスベスト)は、その粉じんを吸入することにより、肺がん、中皮腫等の重篤な健康障害を引き起こすおそれがあることから、現在は石綿含有製品(石綿及び石綿をその重量の 0.1 %を超えて含有する全てのもの)の製造、輸入、譲渡、提供、使用が全面的に禁止(石綿分析のための試料などの製造、輸入、使用は許可)されています¹。
石綿を含む建材の分析や除去などに関する技術上の指針やマニュアルも公表されています。
石綿障害予防規則は、石綿の安全な取扱いと障害予防についての基準を定めた厚生労働省令³です。
詳しい情報は厚生労働省のウェブサイトで確認できます。
労働安全衛生法
労働安全衛生法は、労働者の安全と健康を確保するための基本的な法律です。
この法律に基づき、石綿障害予防規則が定められています2。
「労働安全衛生法」に基づく「石綿障害予防規則」第10条第1項や第2項では、すべての事業者に労働者の石綿ばく露防止対策を義務づけています。例えば、事業者は、自らの雇用する労働者が通常働く場所で吹付け石綿などが劣化している場合には、その除去や修復等の措置を講じることが求められています³。
この規則は、労働者が安全かつ健康的な労働環境で働けるようにするために重要な役割を果たしています。詳しい情報は厚生労働省のウェブサイトで確認できます¹。
石綿被害者救済法
石綿による健康被害を受けた者やその遺族に対して、医療費や療養手当などの給付を行うための法律です。
労災保険や船員保険などの既存の制度で救済されない場合に適用されます。環境再生保全機構が救済給付を行っています。
※石綿による健康被害の救済に関する法律
大気汚染防止法
大気汚染防止法は、大気中の粉じんや有害物質などの排出を規制し、大気の保全を図ることを目的とした法律です。この法律により、アスベスト(石綿)の飛散を防止するための規制が定められています。
具体的には、アスベストを含有する製品や建材の製造、輸入、譲渡、提供、使用は全面的に禁止されています。
また、アスベストを含有する建材(特定建築材料)が使用されている建築物や工作物の解体、改造、補修作業を行う場合は、事前に都道府県や政令市に届出を行い、作業基準を遵守することが義務付けられています。作業基準とは、作業場の隔離や養生、集じん・排気装置の使用、湿潤化などの石綿飛散防止対策を定めたものです。作業基準に違反した場合や事前調査を報告しなかった場合は、罰則が適用されます。
アスベストによる健康被害の推移
独立行政法人環境再生保全機構のサイトによると、アスベスト(石綿)による健康被害の実態は、石綿による健康被害と言われている中皮腫の患者は年々増えつづけており、2017年に中皮腫で死亡された方は1,555名で、1995年の3倍以上になっています。1
また、石綿を吸入することによって壁側胸膜に生じた限局的な線維性の肥厚を、石綿健康被害救済制度及び労災保険制度では「胸膜プラーク」と呼んでいます。2
石綿関連疾患は発症までの潜伏期間が長いことから、石綿ばく露歴が明らかでない場合もでてきます。そのため、胸膜プラークと石綿小体(アスベスト小体)が、医学的に客観的な石綿ばく露の所見として非常に重要です。2